2016年12月19日(月)晴れ


先日、電話でビックリするようなガイドの依頼が入りました。


12月15日~16日で開催される日露首脳会談に

プーチン大統領と一緒に出席される

ロシアのVIPの方を1人

富士山山頂までガイドすると言う依頼です。


私も片言の英語しかできないので

最初は断ろうかとも思いましたが

光栄なことに私をガイドとして選んでいただけて

こんな機会はめったにないことなので

ガイドさせていただくこととなりました。


※ ガイドの内容をブログなどにアップする許可はいただいています。


ガイドするコースは

富士山の御殿場口から山頂までです。


冬の富士山は

雪の部分は全てアイスバーンで固められていると言っても過言ではなく

滑落すれば数千メートルの氷の滑り台を滑り落ちることになり

今シーズンに入ってからも5人の方が亡くなっています。


冬の富士山は常に強い風が吹いているため

安全に登頂するためには

天候を確実に判断して

快晴で気温が高く風の弱い

ベストコンディションの日を狙ってかなければなりません。


快晴の日でも

気温の低い風の強い日であれば

カチカチに凍ったアイスバーンの上で突風に吹かれることとなり

滑落する危険がかなり大きくなります。


最初は16日に首脳会談が終わった翌日の

17~18日(日)のご希望でしたが

私の仕事の予定もあり

18日までは冬型の気圧配置のなごりがあって

強風が予想できたため

移動性高気圧が日中を通過する

19日(月)にガイドすることとなりました。


下記の写真は18日(日)の裾野市からの写真です。

山頂に笠雲がかかっているのは

強風が吹いている証拠です。


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下記は

私が富士山/御殿場口からガイドする場合の行動基準です。


七合目で最終判断をして

その時のゲストの方の体力、七合目以上の雪面の状況などを判断します。


そして、危険だと判断した場合

安全を最優先にして

ゲストになんと言われようとも

そこから下山することとなります。


疲れが出ている下降の時に

アイゼンを引っかけてバランスを崩しただけで

アイスバーンの氷の滑り台で滑落する危険のある場所を

ヘッドランプで下山することは

自殺行為となります。


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あらかじめ

この内容を説明して

了解してもらってからの出発となります。


夏の御殿場口は閉鎖されているので

隧道を抜けた所にある駐車スペースに05:00集合。

ゲストの方の奥様、通訳の方に見送られて

05:10に出発しました。



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夏の御殿場口あたりにくると

御殿場市内の夜景がよく見えます。


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富士山も見えるようになってきました。

雪は四合目ぐらいから出てきます。


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もうすぐ日の出ですね。


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満月ではありませんが

月が明るく照らしてくれていました。


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箱根方面から太陽が登って来ます。


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約2時間歩いて最初の休憩。

お互いに片言の英語しかできないので

意思疎通がなかなか難しいです。(笑)


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雪がないのでいいペースで登っていきます。


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やっと雪が見えてきました。


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ここの先からは

カリカリのアイスバーンが始まります。


ザイルを付けてショートローピングで確保。

バランスを崩したら瞬時に引っ張って転倒を防ぎます。


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五合目から上は

全てカリカリのアイスバーン。


残っている踏み跡は数日前のもので

これもカリカリです。


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ゲストの方は大柄で

私より20kgぐらいは重いので

完全に転倒して引っ張られたら

一緒に引きずり込まれる可能性もあるので

ザイルに全神経を集中させます。


ここから先は絶対に確保のミスは許されません。


前を向いて登っているので

後ろの様子を見ることはできません。


なのでゲストの方の足音を聞きながら

そしてザイルの引き具合で相手の動きを判断して

ゲストの方が動いていない時に私が動きます。


このタイミングがずれて

私が脚を上げているときに後ろで滑落して引っ張られたら

引きずり込まれる確率が高くなります。


出発から5時間ほどたって疲れが出てきたようで

ゲストの方の立ち止まる時間が増えてきました。


休憩したときにゲストの方が

ふいに雪面に腰をおろしたため滑り出しました。


すぐにザイルで止めたので事なきを得ましたが。。。

ちなみに

バックアップで鉄杭にザイルを固定してありました。


ここではおちおち座って休むこともできません。


更に登り始めてしばらくするとザイルに手ごたえが。。。

瞬時にザイルを引っ張って自分の態勢を整えます。


速攻で振り返ってゲストの方を見ると

アイゼンを引っかけてバランスを崩したのか?

固い氷でアイゼンの派が刺さりにくかったのか?

片足が浮いた状態でした。

危ない。。。危ない。。。


ザイルには釣りのテグスのように

今まで以上に全神経を集中させて登って行きます。


やっと傾斜が落ちてきて

岩がある場所で座って休んでもらうことができました。


しっかり補給してもらい次の登りに向かいます。


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宝永山の火口の向こうに

愛鷹山と伊豆半島の山々が綺麗に見えます。


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山頂方面も

全て固いアイスバーンに覆われています。


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ここから右上気味にトラバースするのですが

トラバースでの確保は難しいので神経を使います。


時々、薄い雪の吹き溜まりが出てきて

この時だけはホッとしました。(笑)


そして3050mの七合小屋に到着。

ここでやっと安心して休むことができました。


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太陽を浴びて

アイスバーンが光っています。


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山頂方面も一面のアイスバーン。


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山中湖と丹沢方面の山々。


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七合目の小屋に着いたのは11:50頃。


行動予定では

山頂に向かうためには

遅くとも11:00にここに着いていなければなりません。


山頂までの標高差は約700m。

このペースで登ると山頂までは約3時間はかかります。


山頂到着が15:00だとすると

この七合小屋に戻ってきたときには

早くても16:30になって日没になってしまいます。


完全にタイムアウトですね。

片言の英語を駆使して状況を説明しました。


ゲストの方は山頂に行きたいと言っていましたが

何度も状況を説明して

残念ですが、下山することを了解してもらいました。


少し長めに休憩してから

約1000mのアイスバーンの下山です。

下降は登って来たルートとは違い

小屋から真下に降りて行きます。


ザイルをピンと張って確保し

ゲストの方の動きを一瞬も見逃さないようにして

私も動きます。


ゲストの方はかなり疲れてきているようで

何度も立ち止まって太ももを指さして

脚が疲れたと言っています。


後ろから足の動きを見ていて

歩き方が雑になってきたら

アイゼンを引っかけないようにガニ股歩きを

ジェスチャーで指示します。


ゲストの方は

疲れているせいもあって

何度もアイゼンを引っかけてバランスを崩しそうになり

そのたびにザイルを引っ張って瞬時に確保しました。(冷汗)


私はピッケルのシャフトを持って歩き

もし引きづりこまれそうになったら

アイスクライミングで氷にバイルを打ち込む要領で

ピッケルのピックを固い雪面に打ち込んで

最悪、これで止まるように構えていました。


とにかく体重差が大きいので

転倒する前に確実に止めなければなりません。

こんなに長時間、

神経を集中して確保して歩いたのは初めてでした。(笑)


途中で大きな石があったので

座って休憩してもらいました。


私はピッケルのピックを雪面に打ち込んで

しっかりと確保しています。


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登りは下の写真の稜線の少し下のコースを登りました。

見事なアイスバーンが広がっています。


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山頂を見上げてもこんな感じです。


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なるべく安全そうなラインどりで

ドンドン下って行きます。


ちょっと傾斜が落ちた岩場があったので

安心して一休み。


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ついでに記念撮影も。(笑)


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アイスバーンを無事に下ってきて

雪渓の末端で大休止です。


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山頂で飲もうと思って準備していた

ロシアンティーでティタイムにしました。


紅茶にクランベリージャムを入れて飲みます。

山頂で飲みたかったのですが

喜んでいただけました。(^^)


ここから先は

雪の無い登山道を約2時間歩いて下山です。


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まだ二ツ塚が遠くに見えてますね。(笑)


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そして15:00頃に

無事に駐車場に到着。


奥様と通訳の方が出迎えてくれました。


通訳の方に

登頂の中止した状況を伝えてもらおうとしましたが

ゲストの方は説明を聞くこともなく


「聞かなくても分かっています」


と言ってくれました。(^^)


そして最後に笑顔で

「ありがとう」

と片言の日本語でお礼を言ってくれました。


本当に嬉しい一言でした。


この瞬間、今日の疲れが吹っ飛んだのは言うまでもありません。

この瞬間のために

私は山岳ガイドをやっているようなものです。(^^)


今回は残念ながら

富士山に登頂することはできませんでしたが

私の判断と行動を認めていただいて

本当にガイド冥利につきます。


また機会があれば

冬の富士山のリベンジをしていただきたいです。


危ない状況も何度かありましたが

ロシアのVIPの方をガイドすると言う

大役を無事に終えて

ホッと胸をなでおろしています。


今日は本当にお疲れ様でした。


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